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NO.3 Length of Ocellar Setae

  • ibfuita
  • 3月11日
  • 読了時間: 5分

ヤドリバエの同定形質を説明する,第三弾です.今回のテーマは Length of Ocellar Setae.Ocellar setaeは単眼剛毛,つまり単眼のすぐ近くに生える剛毛です.

剛毛を表す英語は setae,setulae,bristle があり,文献によってどの単語が使われるか異なったりします.意味に違いはないとみなして問題ないんじゃないでしょうか.

また,Ocellar setaeは,普段は略して Ocellarと表記すると思います.


 

NO.3

Length of Ocellar Setae

  (訳)単眼剛毛の長さ

  重要形質度: ★★★★★

 わかりやすさ: とてもわかりやすい


 

単眼剛毛の長さは, 大まかに, 以下の3つのタイプに分けられます.


①単眼剛毛はよく発達(well-developed). つまり, 長い.

②単眼剛毛はあまり発達しない. つまり, 短くてまるで軟毛のよう(short and hair-like).

③単眼剛毛が欠如(missing).


単眼剛毛はない場合もあるのですね.

では,実際の例を見ていきます.


⚫︎Ocellar setae well-developed の場合

単眼剛毛というのは,前単眼の付近にある剛毛です.後単眼の後方にも数本の剛毛がありますが,これは単眼剛毛とは別のものです.単眼剛毛が前単眼に対してどの位置から生えているかという形質もときに重要となりますが,この形質の説明は別の機会にしましょう.


次はどうでしょう?

先ほどとくらべると,単眼剛毛はやや短いですね.ではこれは Ocellar setae short and hair-like のグループなのでしょうか?じつは,これは Ocellar setae well-developed です.Ocellar setae short and hair-like の場合は,もっと短いです.


ではまたまた,その境界はどこなんだという話になりますね.実際は曖昧な場合は少なく,発達してたらwell-developed,かなり短かったらhair-likeと直感的にして問題ないです.

ただ厳密には,次のようにして分けられる場合があります.


 

Ocellar setaeの長さ > 最も上のFrontal setae の長さ の半分…well developed

Ocellar setaeの長さ ≦ 最も上のFrontal setae の長さ の半分…short and hair-like


 

ただし,最も上のFrontal setaeとの比較の代わりに,最も上のOrbital setaeとの比較で書かれていることもあるような気がします.

Frontal setaeやOrbital setaeについては,次の図を参考にしてください.ここら辺の頭部の剛毛については,また後ほど別の機会で説明することになると思います.




⚫︎Ocellar setae short and hair-like の場合

拡大してみてもらえればわかりやすいと思いますが,単眼剛毛はかなり短く,さらに,細いですね.軟毛/hair よりは明らかに長いとは言え,他の周りの剛毛と比べればかなり短い.


もう一つ例を見ます.

一見ないじゃんと思うかもしれませんが,よく見るとしっかりあります.が,これはほぼ 軟毛/hairに近い程度しか長さ・太さがないですね.



⚫︎Ocellar setae missing の場合

Ocellar setaeないですね... 毛根/ソケット も見当たらないですから,もとあった剛毛が取れたわけでもないです.単眼付近には, 軟毛しかありませんね. Drino属は, Ocellar setae missingの種が多いことで有名です.



ということで,単眼剛毛の長さについて見てきました.割と簡単ですよね.しかし,注意すべき点があります.次の 2点です.



 

⚫︎注意点1 剛毛が取れている可能性を考える


 ハエが生きている間は意外と剛毛取れにくかったりします.しかし,死後,乾燥してしまうと,少し触れただけで,いとも容易く剛毛は折れたり抜けたりしてしまいます.ひじょうに厄介ですね.さて,次の種類の Ocellar setaeは上記の3つのうちどのタイプでしょうか?

一見,Ocellar setae missingに見えますよね.しかしよく見てください.

前単眼の両隣に,剛毛の毛根/ソケット があるのが見えますよね.丸いくぼみです.つまり,ここに Ocellar setaeが本来生えていて,それが取れたに過ぎないのです.


そしてこのソケットはかなり大きいですよね.つまり,ここに本来生えていた剛毛はかなり太く長めであったのではと推測できます.Ocellar short and hair-likeの個体なら,Ocellar setaeが取れてもここまで直径の大きなソケットは残らないでしょう.あくまで推測の域はでませんが,この個体は高い可能性で Ocellar setae well-developedだろうと推測できるのです.


このように,常に剛毛が取れていないか気を付ける必要があります.剛毛が取れただけなのか,もともと剛毛がなかったのかという違いは,毛根/ソケット の有無で確認できます.さらに,毛根/ソケット の直径を見ることで,もともと生えていた剛毛の長さを大まかに推測できるのです.


 

⚫︎注意点2 変異


剛毛を見る際に注意が必要なのは "変異" です.そんなに頻繁なものではないだろうと軽く思う人もいるかもしれませんが,実際は剛毛の形質にわりと変異が見られます.

"変異" は,ハエの同定を一気に難しくします.


上の写真では,単眼剛毛の本数に変異があります.単眼剛毛は基本的に,1対だと思いますが,この個体では 右側の単眼剛毛が2本になっています.

別の種類ですが,単眼剛毛が左右とも2本となる顕著な変異個体も,自分の手元の標本の中にありました.


さて,この場合は,本来は1対だったろうと用意に推測できますが,いつもそうであるわけではありません.例えば,次の例はどうでしょうか?

左側は単眼剛毛が存在しますが,右側では存在しません.上の写真だと,右側にソケットがあるようにも見えるのですが,これは影で黒く見えているだけですね,実際にはソケットさえ存在しません.

これでは,どちら側が本来の状態で,どちら側が変異による異常なのか,さっぱりわかりませんね... これだと種類判別のとき,ものすごく困ってしまいます.


結果から言うと,左側が変異です.この種類は本来,ocellar setaeを持たないです.


しかしこれは, 他の多くの形質を確認して, 種類を確定させた後に判明したことです.

変異が存在し, どちら側が本来の姿かわからない場合, その形質は一旦脇に置いて, 他の形質を精査するしかありません.


じつは今回の場合は,Compsilura属の総説論文の中に,「C. concinnataで稀に単眼剛毛が発達する個体がいる」という旨の文が書かれています.それを聞くと少し安心しますね,変異とみなしても問題はなさそうだと言えます.

しかし,先行研究で示されていないような変異をもつ個体を採集することもありますよね,そのようなときは,手元の個体を変異と見做していいのかいつも不安ですね.


経験上,単眼剛毛はそこまで変異が頻繁に見られる部位ではないと思いますが,それでも変異個体は少ないながらいますし,注意が必要なのは間違いないですね.


 


さあ, いかがだったでしょうか?

NO.3では, "Length of Ocellar Setae"について解説しました.

ぜひいろんなヤドリバエの単眼剛毛を見比べてみてください.

 
 
 

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